2017年11月2日木曜日

八月の鯨(1987)

本当はその前に1982年作成『Bladerunner(ブレード・ランナー)』を見たのですが
今日はそれはちょっと置いておいて、この『八月の鯨』について書きたいと思います。

90年代当時、Lilian Gish(リリアン・ギッシュ)とBette Davis(ベティ・デイヴィス)の
名女優2人が共演するという事で話題になった映画ですが私は観ていませんでした。
まだ若すぎたのでしょうか、なかなか触手が伸びませんでした。

ある程度年齢を重ねて来た人が観ると、
静かな感動を呼び起こすものがあるかもしれません。

それは過去に出会った誰かかもしれないし、
会った事のない先祖かもしれない。
もしかしたら、将来の自分かもしれない。

リリアン・ギッシュ演じる妹は素直な女性、
ベティ・デイヴィス演じる姉はちょっとひねくれている女性、
対照的な姉妹の老年のひとときを描いたものです。

静かで穏やかな海辺の少し上に建てられた木の家。
大きく開けた窓からは常に心地よい風が入ってくるようで
懐かしい、暖かい雰囲気です。
白内障で盲目になった姉を妹がひきとり、
頑固な姉にちょっとうんざりしながらも
ささやかな日常に幸せを見出して暮らしている妹。

変わりゆく時代を生き抜く2人のまなざしは
とても真摯で、時にユーモアがあり、
「戦争で・・・」と言うとすぐに「どの戦争?」と訊くあたり、
2度の戦争をタフに生き抜いたという事実が分かります。

ある女性が軽やかに言い放ちます。
「人生の半分はトラブルで
 あとの半分はそれを乗り越えるためにある」
この台詞は名言だと言われていますね。

私が印象に残ったシーンは2つ。
1つは、亡命貴族が姉妹と初めて対面する時です。
「おじぎを知る最後の紳士よ」と紹介されるのです。
昔は男女間の距離は今より離れていて
敬意と共に挨拶も行われていたのですね。

エレガントにおじぎをして座るこの亡命貴族の役は
Vincent Price(ヴィンセント・プライス)という俳優さんです。
『シザー・ハンズ』 で博士の役だった人ですね。
ちょっと出るだけでもすごく印象に残る人だから
他の映画も観てみたいのですが、
(私が一番苦手の)恐怖映画が専売特許だったみたいです。

姉に辛らつに言われ、気品のある紳士の表情に翳りが
そして妹と海を観ながら過去を振り返ります。
貴族だったとは言え、財産を少しずつ売りさばきながらの
流浪の孤独を背負った人生だったと。
妹が思う様な素敵なものでは必ずしもなかったことを
ほのめかします。
「貴方は本当にロマンティックな方ですね。」
そして月に照らされた海の輝きを観て
「あの輝きだけは決して手の入れる事の出来ない宝石です」

2つ目は、妹が結婚記念日にワインを飲むシーンです。
結婚してたった一年で亡くなった(それももしかしたら
戦争に行く前に式だけあげて形だけの夫婦になった)
ご主人との思い出を語る場面です。
庭に咲いた赤白のバラと赤ワイン。
キャンドルを灯して、綺麗なドレスでワインを口にする。
本当に粋(イキ)ですね。
私が注目したいのは、この時のリリアン・ギッシュの台詞は
女優としての彼女の想いを重ねたようになっていたことです。
「全てを貴方に見せたら、私の神秘性が無くなってしまう」
誰に向かって話しているのでしょうか。
彼女が尊敬していた映画監督に対してでしょうか、
それとも私達観客に対してでしょうか、

リリアン・ギッシュは生涯独身だったそうです。
人生を女優として生きた、潔い生き様。

役と本人の心が交差するような仕掛けがあって、
この脚本、このシーンは本当に不思議でした。

気難しい姉を演じたベティ・デイヴィス。
素顔も中々勝気な性分で他の女優を認めなかった
と言われていますが、
リリアン・ギッシュだけは心から尊敬していたそうです。
タイプは違うけれど映画に対する
熱い想いは一緒だったということですね。

私がすごいなと感心したのは、
気難しい姉に辟易しながらも
2人であの家に留まることを決意する
妹の心意気です。
否、どうしたってあのお姉さんは難しいでしょう!
これから先、自分も自由が効かなくなって
不安に思うことが増えてきたら、どうするんでしょうか。
でもあの段階で、妹は家を売らない事を決意する。
そして妹の意外な強さに感銘を受けた姉は
大きな窓を作る事を決意します。

大きな窓は象徴なんですね。
幾つになっても、美しい物を観たい、
『八月の鯨』を待ちわびてた少女の頃の2人は
年を重ねても人生に輝きを見つける。
美しいエンディングです。

最後、ゆっくりと長まわしで家の中を映すと
そこにはどこか知っている暖かい風景があります。
それはもしかしたら消えゆく良いものかもしれない
でももしかしたら、いつまでも残り語り継がれるものかもしれない

綺麗に吊られたカップやきちんと並べられた皿、
レースのカーテンにそよぐ海風、
磨かれてこざっぱりした気持ちの良い木の床、
どこか懐かしい、愛おしい気持ちにさせる家。


また時折この映画を観ては
自分の立ち位置を確認したいと思う作品でした。




















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